株式会社梓総合研究所 代表取締役社長

田中明彦

Akihiko Tanaka

私の三綱領「乾坤一擲」「一意専心」「万里一空」

田中明彦

略歴

早稲田大学理工学部卒。新卒で丸紅株式会社に入社。アルジェリアの染色仕上げプラント工事事務所長として2年間、ベルギー勤務を経て東京本社に帰任後、三菱銀行に転職。M&A、プロジェクトファイナンス、市場系取引等、主に投資銀行業務に従事。
退職後、丸三証券、三菱総合研究所、PCIホールディングスの役員等を務める一方、梓設計の顧問の他、ブロックチェーンのベンチャー企業の社外取締役他、幾つか兼任して現在に至る。

現在の仕事についた経緯

三菱UFJ銀行退職後、シンクタンク、証券、IT会社数社の経営や事業戦略に携わりました。その一端で、株式会社梓設計のアドバイザー(顧問)として、同社創業75周年を迎えるにあたって、今を点検しつつ次の10年の会社創りというテーマで、一流コンサル会社のATカーニーとともに参画しました。
その一環で、未来を切り拓くにあたっては、十分な情報ネットワークの構築、オーガニックな企業連携、そして、知の財を築きつつ、大きな視野で社会にコミットしていくシンクタンクが必要だと思い、AIRを設立しました。
勿論、梓設計が創り出す未来デッサンや建築設計技術を世に提言していく意味合いもあり、三菱総合研究所で事業戦略を担当し、ITや金融で役員を務めてきた経験から、梓設計よりAIR設立と代表取締役就任の要請があり、これに応じました。

仕事へのこだわり

大学4年生時、理工学部の教授推薦にて、ソニーさんにエンジニアとして就職が内定していました。時間に余裕があったせいもありますが、とにかく好奇心旺盛、チャレンジ精神旺盛で新しい世界に顔を突っ込むのが大好きという生来の気性から、大学の友人が自由募集であった総合商社に志望しているのをみて、軽い腕試しのつもりで応募しました。
丸紅さん、住商さん、日商岩井さん(当時)での人事担当者と意気投合し、特に日本の炎熱商人を地でいく大きな海外プラント輸出を成功させていた丸紅で結局お世話になることにしました。ある意味、フレキシブルですが、こうと思ったら猪突猛進で、ソニーさんには随分叱られた思いが、今思えば何とも懐かしいです。
入社後、希望通り、プラント本部に配属となりました。いきなりアルジェリアの繊維公団SONITEX向け入札作業で3日連続の徹夜、音を上げたら書籍が投げつけられたのには閉口しました。随分理不尽なものだと思いましたが、忍耐・粘り、そして「なにくそ」という負けじ魂が頭をもたげ、「早くヘッドを取ってやる」と人一倍頑張り通しました。当時、「Produit En Main」(Product in hands)というフルターンキー+現地工場スタッフでの生産保証が課された前代未聞のプロジェクトでした。
落札後は、元請けゼネコンであった大洋漁業さんの子会社の大長崎建設が300億円近い負債を残して倒産。正に総合商社が地の果てアルジェリアで140億円(今でいう800億円規模)のプラントを立ち上げなければならなくなりました。そして、そのプロジェクトの立上げ責任者として現地でプラントを立ち上げる大役を若くして仰せつかりました。日本人100名、現地人300名の大所帯の取り纏めは勿論、工事の資材が手に入らない、許認可が下りない、大きな事故が起きる、決済資金が不足、山道の輸送道路が陥落する等苦難の連続でした。でも、それが一歩一歩前進し、立ち上がっていくのを見て、「こんな経験ができるのは何とも幸せなことか」と思えるのが私の性分、仕事スタイルの原点です。
実際、三菱銀行に転職後も、同行初のM&Aアドバイザリー業務を担当する財務開発本部で、ロート製薬さんのメンソレータム買収、味の素さんのベルギーOMNICHEM社買収、三菱化学さんの英国カーボンファイバー事業買収、キリンビールさんのオランダ花卉ボイオ会社買収他、30件を超す案件を成約しました。
なかでも、味の素さんに関しては、買収後20年以上にわたり多額の収益を計上した優良案件でしたが、オープン入札であり、第一次入札で世界の有力企業40社が応募したこともあり、まさかの落選。ここで諦めず、売却側アドバイザーであったモルガンスタンレー英国の日本デスクトップのマネージングディレクターとアポを取り、粘りに粘り、またいろいろな手を配し、復活させることができました。
最終3次入札では、仏ローヌプーラン、米アーサーダニエルミッドランド、独バイエルの3社との競合で、最終交渉に当時トップであった鳥羽社長、稲森副社長(カルピス社長)以下常務2名、部長14名、課長4名の大デレゲーションを組成して交渉のブラッセル郊外のキャッスルに臨んで頂きました。勿論、これだけのメンバーを招集した以上、失注は万が一でも許されず、その為、事前の徹底した競合各社の情報収集と勝てるオファーの提案と交渉戦術を練りに練って臨みました。これが奏功してか、落札できたわけですが、正に引き下がらない何とか勝利に結びつける思いは、丸紅入社時と変わらずのものでありました。これが今にも生きています。

若者へのメッセージ

IOTの進化、通信超高速度・容量拡大、AIや量子コンピューティングの実用化、間近となる宇宙旅行・成層圏飛行、導入が進む自動運転・ロボット・ドローン、スマートシティの出現、地球温暖化による気候激変や異常気象、ロシアによるウクライナ侵攻で明かになったエネルギー・食糧危機、ミャンマー・イラン・イスラエル・アフガニスタン・北朝鮮・ジョージア・香港・ベラルーシュ・台湾を巡る軍事紛争、民族差別や米中ロの対立先鋭化での国連無力化等々、世の中は世界レベルで様変わりしています。
一方、2020年よりの果てしないコロナ禍でのマスク着用下、繰り返される緊急事態宣言、蔓延防止措置、農耕接触隔離措置、海外渡航禁止鎖国政策と在宅ワークによる働き方改革他で、この激変に日本は上手く対応ができていません。賃金もここ30年で4,5%程度の上昇に抑えられ、かつ、日本国債発行残高も1,000兆円を超える等で、国絡みで打てる手も限られつつあります。若者は、多様化する社会に、大いなる好奇心と志をもって、失敗を恐れず、新しいこと困難なことに立ち向かっていってほしいです。
新しいテクノロジー、ビジネスモデルや流行の話を聞いたら、自らの殻にとどまらず、広く情報収集を心がけるとともに、シニアで知見やセンスを有する方とそれを共有し、如何に世の中に訴えていくか、実現させて頂くかを議論しモデリングしてほしいと思います。オンラインでの仕事は、若い人にとっては、無知な上司からとやかく言われず、自身の時間も確保し、無駄な時間を省くということでよいかもしれませんが、2次元で一定にセットされたマインドでの対話には新しいものは生み出されません。時間をやたらロスする惧が強いです。In personが3日、オンラインが2日のバランスでの就業形態が良いと思います。