株式会社大塚(補聴器専門店プロショップ大塚) 代表取締役社長

大塚祥仁

Yoshihito Otsuka

integrity

大塚祥仁

略歴

中京大学大学院ビジネスイノベーション研究科卒。23歳で家業である時計・宝石・メガネ・補聴器のプロショップ大塚に入社。補聴器専門店プロショップ大塚への業態転換を経て、2012年に現在の株式会社大塚を父と設立。2013年に代表取締役社長に就任。翌年、働きながら夜間の社会人大学院でMBAを取得。
現在は補聴器専門店プロショップ大塚を5店舗運営しながら、補聴器業界の技術者向けにWebマガジン『イチからはじめる補聴器フィッティング(note.com)』にて記事を執筆中。子育てに追われる二児の父。

現在の仕事についた経緯

元々、曾祖父の大塚幸平が大正五年に時計修理業を創業し、祖父が二代目、父が三代目と継いできました。学生の頃は事業を継ぐ気はまったくなく、IT系の起業を目指していました。ところがそれに失敗しまして、幸い借金は残さなかったのですが、当時の彼女に「親に紹介できない」と言われ、父にも「新規事業を手伝わないか」と誘われたのがキッカケです。最初は補聴器の仕事をやる気なんて、まったく無かったんですよ。

ところが入社して、補聴器の勉強をしてみると、これが意外と面白くて。補聴器は、難聴の方をお客様にしているため、一人ひとりの聴覚や耳の形状に合わせて、オーダーメイドで作るものなんです。
聴覚や解剖学、音響学や工学など色々な知識が必要なのですが、2007年当時は先進国の中で日本の補聴器業界はとても遅れていて、日本語のテキストもほとんどありませんでした。
だから真面目に勉強すれば突飛で特殊なことは何も必要なく、スタンダードな方法で補聴器をフィッティングするだけで、お客様から「よく聞こえるようになった!」って、すごく喜んでもらえる状況だったんです。

目の前のお客様に喜んでもらえる経験が続いたことから、グローバルスタンダードになっている技術とサービスを、しっかりと日本に広めていく。そうして地域のお客様の聞こえを改善していくことを目指すようになりました。

仕事へのこだわり

若いころからアンフェアなことは嫌いでした。公正さとか、一貫性についてはこだわってきたと思います。好きな言葉はIntegrityです。日本では“真摯さ”と訳すのが一般的ですが、個人的には“誠実さにおいて一貫性がある”という意味だと思っています。

こう思うようになったきっかけは、お客様の多くが高齢者であること、そして私たちの取り扱っているものが目に見えない“音”だからかも知れません。

今の高齢者は、実際より若く見える方が多くなって、皆さん矍鑠(かくしゃく)としていらっしゃいます。でも私が今の仕事を始めた2008年ころの高齢者は、たとえば訪問販売で親切にされると、布団や壺を買ってしまうような人が今より多かったんです。

補聴器についても販売員から親切にされてしまうと、それだけでよく聞こえなくても買ってしまう。

補聴器を買った後、よく聞こえなければお店へ行って相談して、補聴器を調整してもらって、よく聞こえるようになればいいのですが、昔はそういった調整が出来ていないケースが少なくありませんでした。
この状態はフェアではないなと思い「補聴器の三か月無料貸出サービス」を始めました。

折込チラシや当時まだ新しかったWebページでは
『補聴器はよく聞こえるようになってから買って下さい』
『よく聞こえるまでは買わないで下さい』
『他店様も比べて、本当に自分によく合ったものを選びましょう』
こういうメッセージを繰り返しPRしました。

このサービスを始めたのは2009年頃です。

その後、当社のWebページが補聴器関連のサイトとしてはGoogle検索で1位を取っていた時期が続いたこともあり、長期の補聴器貸出サービスが全国的に増えてきています。

当社にとっては差別化の要素が減り、ビジネスとして見るなら競争が激しくなっていると言えるかも知れません。それでも広く一般の難聴の皆様にとってフェアな状況になってきてくれているのは嬉しいことです。

若者へのメッセージ

若者が働く上で大切なことは、スキルを身に着ける事、ちゃんとお金を稼ぐ事、多少無理してもいいけど心身のダメージを残さない事、そしてやりがいのある仕事や家庭や趣味などの何かで充実を得る事かなと僕は思います。
友人関係の付き合いについては、25歳くらいからは減ることはあってもあまり増えなくなり、がんばっても維持が精一杯になるんじゃないかな。

スキルの獲得、経済力、心身の健康、友人、趣味、家庭、希望する衣食住、子供が出来れば良い教育など、欲しくなるものは色々あると思います。もしかしたら人によっては「全部が手に入って普通」と思うかも知れません。
期待されていない言葉かも知れませんが、これら全部を“同時期”に手に入れることはおそらく不可能です。決断しないと全部が中途半端になってしまいます。

個人的には、プレイヤーとして仕事を頑張っている若い時期には彼女を作れませんでした。MBAを取りながら働いていた時には友達と会う時間が減りました。多店舗化を進め東京へ進出した際には、2歳の娘と会う時間が減りました。現在はWebマガジンを毎月執筆しながら子育てと仕事に追われており、読書や勉強の暇がありません。

僕の人生で、欲しいもの全部を同時期に手に入れられたことはありません。でも後になってから振り返ると、過去の決断の結果、手に入った素晴らしいものは、今も消えずに残っています。

人生のそれぞれの時期で、何を大切にするか、そのためには何を手放す必要があるのか。こうした決断が、長い人生を、長く充実して楽しむことに役立つのではないかなと思います。