株式会社アステム 代表取締役

野口敬志

Takeshi Noguchi

千里の道も一歩から

野口敬志

現在の仕事についた経緯

アステムはもともと父が神奈川県で経営していた会社で、私はそちらへ入社した形です。
これまで紆余曲折ありましたが、最大のピンチはバブル崩壊の時。建設市場がシュリンクして供給過剰に陥り、価格が暴落したときでした。当時は宮城県に子会社の工場があったので、私はてこ入れをするために宮城県へ出向していたのです。しかし時すでに遅しで、親会社が倒産してしまったんです。私は子会社の工場長という立場だったんですが、お客様に出資などを頼み込んでなんとか会社を引き継ぐことができました。社長に就任したのはその頃だったと思います。
弊社の事業についてお話をすると、空調用のダクトや吹き出し口およびダンパーの製造販売を行う会社です。工業製品を扱う会社というとなかなか区別がつきにくいんですが、弊社では完全受注生産という形を取っています。また、なによりの強みは短納期であることです。通常なら2週間かかるものでも、弊社は中2日で仕上げます。建設の工程は複雑なので、短納期というのはおかげさまでかなりご好評を頂いています。なぜそんなにスピード感を出せるのかと言うと、社員の多能工化を図っているからです。溶接したり、切ったりという工程を皆ができるようにしている。そうするとラインで負荷がかかっている工程があっても、皆で応援しに行くことができるのです。

仕事へのこだわりと今後の目標

社長になった当時は顧客満足度No.1を目指そうと奮闘していました。しかし「じゃあ顧客の満足度を上げるのは誰なのか?」と考えました。答えは社員です。だからまず社員を幸せにしなくてはいけないと思いました。それからはCS(顧客満足度)からES(従業員満足)にシフトチェンジして、従業員満足度No.1を目指すようになりました。具体的な取り組みで言うと、残業はきちんとコンプライアンスに則った時間内に収めたり、有給休暇は100%取得できるようにしたりということです。このような取り組みは弊社の強みである「短納期」とは逆行してしまうんですが、社員のモチベーションを上げて生産性も上げるという方向に変えていったんです。その他にも、女性社員ならきちんと育産休が取れて現場に戻って来れるような体制にする。会社でがん保険をかけておいて、実際になってしまったら100万円の一時金が出るようにする。そんな風に従業員が何を望んでいるか考えながら、福利厚生の充実を図っています。

今後の目標として、現在取り組んでいる本業の他にもアジアへの進出やプラント関係の事業を広げていきたいと考えています。弊社の市場は今のところ国内だけなんですが、4年前にインドネシアの会社を買収して生産拠点を設けることにしました。理由としては日本の人口の減少傾向への懸念があります。つまり今後ビルなどの建物を今と同じくらい必要とするかというと、そうじゃないと思っています。そういう考えもあって海外を回ってみたら、最もエネルギッシュなのがアジアだった。それで進出を決めたという流れです。
またプラントに関しては、3年前くらいにさる電力会社から特殊なインフラ設備の研究開発を依頼されました。それが原子力発電に付く耐震耐火のバンパーだったんです。弊社は宮城にある会社ですから、福島第一原発の事故について何か貢献できないかと考えていた最中のお話でした。ようやく去年7月に関連施設に納品し、恩返しができるような形になったところです。そういった経緯もあって、技術開発型の製品をもうひとつの柱として持っていたいと考えるようになりました。
本業においても「短納期ならアステム」と思って頂けるようマーケティング、ブランディングを強化していきたいと考えています。

若者へのメッセージ

感性を磨いてほしいですね。チャンスというのは実は皆平等に届いています。「将来に繋がるような仕事」がビュンビュンと通り過ぎているんです。問題はそこできちんとキャッチできる感性があるかどうか。感性さえあれば「何が今後伸びていくか」「何が自分の天職に繋がるか」そういったことが見えてくると思います。そのためにはとにかく本を読んだり、人の話を聞いたりすることです。今は若い人でもすごい方がたくさんいらっしゃいますが、やっぱり感性のある方が大成されている気がします。