株式会社X-Scientia 代表取締役・教授

古山通久

Michihisa Koyama

変化し続ける力

古山通久

略歴

2002年東京大学にて博士(工学)取得。
2008年九州大学教授、2016年物質・材料研究機構ユニット長を経て2019年環境・エネルギー分野における社会実装加速のため株式会社X-Scientia(クロスサイエンティア)創業。
現在、信州大学教授、京都大学特定教授、広島大学客員教授、株式会社マテリアルイノベーションつくば研究戦略企画部長を兼務。

現在の仕事についた経緯

現在、スタートアップの立場ではエネルギーの刷新を企図した事業化を目指しており、アカデミアでは、学術的に価値のあるものを産み出す研究に取り組んでいます。
私は34歳の時に教授の職をいただいて以来、研究室を独立主宰し、先端科学に挑戦してきました。短期的な視点に縛られることなく、将来の社会のためになることに取り組むことができる点がアカデミアのメリットです。
一方、役立つ成果を産み出しても、自分で実際に社会に実装し世の中を変えることはできません。
そこで、先端知識で社会を変えるべく自分で会社を興しました。起業したからといって、アカデミアを離れる選択肢は念頭にありませんでした。
現在は、先端科学は信州大学、アカデミアと民間企業とのオープンイノベーションは京都大学および広島大学、先端科学による社会変革はX-Scientiaおよびマテリアルイノベーションつくばで挑戦をしています。

仕事へのこだわり

アカデミアにおける研究者としての私は、29歳までは、興味のあることは全部やる、それから34歳までは一つの領域に集中する、34歳からはまた興味のあることは全部やる、という研究の場をいただきましたが、どの場所もよかったと思っています。40歳を過ぎたころから、アカデミアの枠を超えた視点も産まれてきて、様々な方との接点も生まれ、「全部やる」範囲が拡大して現在に至っています。

学生のころから一貫して、狭い視野でものごとをとらえることなく、本質を捉え大きな目線で将来を見据えた挑戦を忘れないよう留意してきました。もちろん遠い将来のことばかりを考えていては足元がおろそかになるので、バランスは常に重要です。これまでの自分を振り返ってみると、将来に向けた大きな挑戦と足元の手堅い一歩とでは、大きな挑戦の比率が少し高かったかもしれません。

アカデミアでもスタートアップでも、ほかの人がやらないことに挑戦するという意味では視点は共通です。かつて、私の仕事の仕方を見て、難しい方の選択肢を選んでいるんだね、と言ってくれた方がいました。自覚があったわけではないのですが、簡単な方を選べば失敗はしませんが、大成功はできませんので、なるほど、と思ったことを思い出します。
私は、研究の世界ではそれなりに世界に先駆けた成果を出してきて、ある分野では現在も世界トップを走り続けていますので、大成功と見ることはできると思います。スタートアップとしては挑戦の途中ですので、今後に期待してください。起業と言えば若者と見る方が多いように思いますが、そのような見方をする人がいると、40代の起業で世界を変えてやろう、と燃えてきます。難しい方の選択肢を選ぶ、それが現在につながっている気がします。

若者へのメッセージ

サッカーでは、足元のボールばかりを見ていてはまわりが見えません。視野を広げるには、足元のボールコントロールだけでなく、パスの受け方など、一つ一つの基礎が大切です。自分のいる場所によってどのような基礎が必要かは違いますが、どのような分野であっても、基礎を身に付けることは重要だと私は思います。ただ、基礎の先にある大きなものを常に見据えていくことが大切だと思っています。空手の型(形)を教えてもらったとして、毎日繰り返すには単調な動きだと思ってしまうか、この型の中にこそ極意が含まれていていずれ極意をつかめると信じて繰り返すか、大きな差が生まれるでしょう。
私は、成長とはほんの小さなことの積み重ねだと思っています。中学に入学した最初の数学は正負の数から学びます。負の数という概念すら知らなかった私たちは、6年間こつこつと学ぶことで微分積分すらできるようになります。数学を選択しなかった方は別の科目を想像してもらえばよいのですが、これだけの成長をしてきたことは驚異的だとの思いは共有できるでしょうか。今からこつこつと6年間積み重ねれば、現在ではまったく想像もつかない場所に到達できるはずです。今はまだちっぽけで手のひらの中には何もないとしても、私たちの持っている可能性を信じて諦めずに進んでいくことで未来が拓けると思っています。