株式会社構造機能科学研究所 代表取締役

鈴木正夫

Masao Suzuki

スキンケアを科学する

鈴木正夫

現在の仕事についた経緯

弊社は「物質科学と生命科学の追究と融合による創造科学の推進と産業利用」を目指す大学発ベンチャーとして1999年に設立されました。
私の専門は脂質生理医科学(脂肪酸系脂質の生理作用と分子科学)ですが、その応用の中の代表例としてアレルギー研究にも携わっていました。そこには個人的な興味もありましたが、アトピー性皮膚炎を発症した息子の存在も大きく関わっています。
約45年前は、まだアレルギーという考えや言葉そのものが普及されておらず、そもそもアトピーも「不思議な」「とらえどころのない」という意味を持つギリシャ語(ATOPOS)に由来している言葉です。このような得体の知れない病気に対し、私自身の研究から何か役立てることはないかと模索し始めたことがアレルギー研究に携わるきっかけでした。
当時、世界の医学界では「アレルギーは食から起こる/経口感作」という仮説が有力視されていましたが、私は経皮吸収製剤の研究開発に携わっていたこともあり、「皮膚から異物が吸収されてアレルギーが始まっているのではないか/経皮感作」という、いわば医学界の流れとは異なる仮説を考えていました。
一方、産業界にあっては国家施策として大学発ベンチャー創出の機運が台頭してきたことから、自身の「アレルギー分野に一石を投じたい」という想いを原動力とし、私の考えにご賛同頂いた理、工、薬、医に携わる全国の大学教授等の方々を出資者として会社の設立に至りました。

仕事へのこだわりと目標

1960年以前は1,000人に1人程度の割合だったアレルギー罹患者は、今や日本人の5割にまで増加しており、すなわちアレルギーの原因は現代生活の中にあると考えて良いでしょう。
たとえば、皮膚に直接塗布する化粧品類です。昔の化粧品は本当にシンプルな成分のみで構成されていましたが、いつしか食物の成分が利用されるようになりました。たとえば石鹸の泡立ちや保湿効果を良くするために小麦の成分を入れるといったことで、これがまさに経皮感作を引き起こし、アレルギーの発端になってしまったという事実があります。
しかし、このような実態を知らない方はまだまだ多く、だからこそ現代生活における問題意識を高め、資本主義経済から自然主義経済へ移行するための発信を行うことこそ、私のミッションとして捉えています。

つまり、お金を中心に据えて体の異常を引き起こすような経済ではなく、自然や健康により着目し、健やかな生命を基調とした経済にしなければいけないということです。
近年、ワクチン接種等を通じて体の免疫機能に注目が集まっています。免疫とは、生命体が健康や命を守るために作り上げた素晴らしいシステムであり、その成り立ちは二つに分けて捉えられます。
1つ目は生まれたときから遺伝的に備わっている自然免疫、2つ目が生まれた後にできる獲得免疫で、前者はどのような人でも大きな差はありませんが、後者はその人がどのような暮らし方をするかによって大きく左右されます。
従って、この免疫を日々の生活の中でいかに意識できるかで、個人の健康状態も大きく変わってくるということです。
免疫を意識する上では「病気になったら治療する」という従来の医療の考え方ではなく、そもそも病気にならないようにする予防医療の発展、普及が重要となります。
たとえば国の医療費予算をこの予防医療、予防医学のために使えれば、平均寿命が延びている現代において、国民が健康に長く生きるための大きな手立てとなるはずです。
医学会ではまだまだ治療に重点が置かれている風潮がありますが、私は人々が心身共に健やかな人生を歩むためにも、予防医療の重要性を訴え続ける所存です。

若者へのメッセージ

私はスーパーサイエンスハイスクールの指定校など中高生の授業や研究指導なども行っており、その場でよくお伝えしていることがあります。
それは「いかに知識を得て、優秀とされている人間であっても未来が保証されているわけではない」ということです。
特にAI技術が発展している近年、知識偏重の人間は通用しません。
重要なのは、あなた自身がオリジナルな存在であり、なおかつその独自性を磨き続けていくことです。ですから、脳に記憶される知識よりも、心に記憶されるような体験を通じて、深く感じ、あなた自身のオリジナリティを深めていってください。
「凝視」という言葉がありますが、これは単に物を見るのではなく、瞬きもしないで見つめるという意味です。興味のあるものを凝視すると、単にぼーっと見ている人よりも、ずっと心に残ります。特に、若い皆さんであればキャンバスがまだ白紙ですから、ありのままの色を見つめることができるはずです。
もし人とは違う色を描けたら、それこそがあなたの感性であり個性ですから、その色を大切にして前へ進んでいってください。