株式会社シンエイ 代表取締役

鐘森雅之

Masayuki Kanemori

一隅を照らす

鐘森雅之

現在の仕事についた経緯

学校を卒業後、全国チェーン店を展開する会社で20年間、店舗の現場から経営企画まで幅広い経験をさせて頂きました。当社に入社したのは2006年、46歳のときです。先代は家内の父にあたる創業者ですが、後継者が定まらないと存続が危ぶまれるという状況だったようです。後程触れますが、私も会社員として業務を続ける中で、働く上での価値観が揺らいでいた時期で、双方のタイミングが合致しての転職でした。
「小規模事業主は大変じゃないか?」とまま聞かれます。前職の経験から一概に大組織が有利といえない場もあると感じてましたので、小規模ゆえの強みを発揮したいとの想いが勝っていました。勿論、実際やってみると大小にかかわらず課題は出てきます。のどかな道ではありませんでしたが...。

仕事へのこだわりと今後の目標

シンエイを継ぐにあたって先ず手がけたのは、ネジ商社にちなんで「つなげる力、つなぐ技」という経営理念を掲げたことです。ネジというモノの流通を通してお客様、町工場、従業員とその家族、関わる全てがモノづくりの町である地元、東大阪のフィールドでつながりあうような会社でありたい。現業を通して共生関係を実感できる場を築きたいという想いです。
この考えは、会社員当時、ある街で店舗出店の地元説明会を開催した時の経験に起因します。何らかの影響を被るであろう地域の皆さんが現業の損得だけではなく、町全体のこと、そしてその先の子供達の世代のことを考えて発言されていることに気づき、人や地域社会とのつながりを語る人の顔は、なんと格好いいのかと心底思えました。しかし長年、優勝劣敗は市場の原理だと教わっていた私には、社会と関わる中で膨らむギャップに悶々とした気持ちを払拭できないでいたのです。経営理念を掲げられる立場になったからには、自分が感じた仕事観を表現しようと思いました。

先代が抱えた事業承継という課題を、遺憾ながら15年経って今度は私が抱えています。
かたちや世代が変わっても持続可能な基盤を収益面でも整えてバトンを渡したいと思っています。
弊社はオーダメイドのネジを取り扱っているものの、ただモノを流通させるだけではなく商品の使いどころ、発揮のしどころをコーディネートしながら、モノの流通を通して付加価値を提供するのが使命だと考えています。
こうした路線はヨーロッパの中小企業群に類似するところがあり、地域全体の活性化に関わることで自身と自社を高めていくことを実践すれば活路は開けると考えています。

若者へのメッセージ

たとえばスポーツ選手のように、自分を切磋琢磨するようなフィールドで仕事されている多くの大人が若者に夢を持てと言います。私も「遠くを見る視点」が大切な事に賛同しつつ、その一方で目の前にある一つ一つの課題に向き合うこと、いわば「足元を見つめる視点」も同時に持つことが鍵だと思ってます。しかし、この面を次世代に発信する大人が少ない気がしてます。
昔話ですが、社会人1日目の入社式で同期が数百人いるのを知り、自分の夢なんて手の届かない彼方に思え愕然としました。しかし自分の足元にある課題から目をそらさず、やれることからやっていると、10年後にはなんとか夢実現の入口に立っていました。
「遠くを視る。足元を見つめる」これは当時の上司が投げかけてくれた金言でした。
しんどくても自身の置かれた立場や業務に対峙すべきシーンは、日常の中にままありますが「無理はしなくていい」「あなたらしさを大切に」いう育った環境の後押しもあってか、現状を見据えて踏ん張ろうという観点がやや希薄に映ります。相反する視点のどちらも大切にして歩んだら、閉塞感を伴って論じられがちな昨今の風潮を打開する新たな推進力になるだろうと信じつつ、祈りたい心境の今日この頃です。