レグセル株式会社 代表取締役社長

半田恭彦

Yasuhiko Handa

明日は明日の風が吹く

半田恭彦

略歴

1991年3月 京都大学文学部卒業
1991年4月 株式会社島津製作所入社 航空機器事業部配属
2006年4月 株式会社島津製作所 航空機器事業部 航空機器工場 調達課長
2008年7月 Shimadzu Precision Instruments, Inc. 日本支店事業統括マネージャー
2014年2月 株式会社島津製作所 航空機器事業部 事業企画部マネージャー
2019年2月 レグセル株式会社 社外取締役
2019年6月 レグセル株式会社 常勤取締役
2019年9月 レグセル株式会社 代表取締役
現在に至る。

代表になったきっかけ

私が以前勤めていた京都の島津製作所は、ライフサイエンス分野でも事業をしており、京都発のバイオベンチャーに企業株主として出資をしていました。その関係で私がそのベンチャーに出向したことが、この業界に入ったきっかけです。そして、そのベンチャーが、現在勤めているレグセル株式会社の設立時株主であったことから、レグセル社との縁ができました。
私が関与した当時、レグセル社は大きな体制変更をしていた時期で、当初は社外役員としての参画でしたが、その後レグセル社に転籍して代表取締役を拝命し、現在に至っています。

これまでの経緯

私が入社した頃はまだバブルの余韻が残っており、文学部哲学科出身者でもなんとか就職でき、航空機器事業部に配属されました。
最初の転機は、航空機器技術を一般民生品に応用して新しい商品を開発するプロジェクトのメンバーとなったことです。文学部出身者ですから素人同然でしたが、プロジェクトをマネジメントする役割を担い、その時に技術的なことだけでなく製造、品質保証などメーカとしての大事な要素を学ぶことができました。
その後、工場に転属となり、資材調達システムの改善や職場の生産改革に取り組み、何時間も職場の方と議論を繰り返して、生産管理についての見識と実践を通した仕組み作りを経験しました。この時期、並行して労働組合の非専従役員として労働問題にも関わり、労使交渉や労使経営協議会などを通して、経営を労働者という別の視点から見て経営者と議論するという経験をしています。

その後に出向した航空専門商社の子会社では経営管理全般を任され、小さいながらも経営的な視座を学ぶ良い機会となりました。その後、航空機器事業部に戻り、事業企画部として事業部の経営戦略等に関わった後、京都のバイオベンチャーに出向してライフサイエンス分野に足を踏み入れ、レグセル社で働くこととなりました。
レグセル社は免疫系、その中でも免疫活性の抑制を司る制御性T細胞(Treg:Regulatory T Cell)による新しい免疫療法を開発しているベンチャー企業です。Tregについての説明を最初に聞いた時に、Tregは、免疫というシステムを最適化する上で鍵となる役割を果たしているのだと思いました。

かつて工場で生産改革をしていた時期、沢山の工程を経る何千何万というオーダーを滞りなく生産し管理していくには、実は工場へのオーダー投入を制限することが鍵であることを学びました。ある特定の工程の設備を増強して生産能力を増やしても、他の工程がボトルネックとなり工場全体の生産性は上がらずどこかでオーダーの滞留が起きていつ製品が完成するのか分からない。ところが工場へのオーダー投入を適度に制限することで滞留が解消され、オーダーが整然と流れて生産をコントロールできるようになる。つまり投入の抑制が工場の生産能力を最大限に引き出すのだということ。これはまさに免疫系におけるTregの役割と同じであり、抑制することがシステムの能力を最大限に引き出す鍵になるということは世の真理なのではないか。真理であるが故にTregの可能性は非常に大きい、そう感じてレグセル社への転籍を決意しました。

振り返ると、文学部出身であるために「自分にはこれが出来る」というものがなく、それ故に色々な部署を経験してきたのだと思います。自分の武器がなかったために、一つ一つの仕事にしっかりと取り組んでいく。それを5年10年20年と続けることで、学んできたことが自分の中で体系化されて昇華し、未経験の新たな分野でもなんとかやっていけている力がついてくるのかも知れません。そして、仕事への真摯な態度が良い人間関係を引きつけて、自分を新しいステージに誘ってくれる、そう思います。

若者へのメッセージ

企業人として考えた場合、最初は誰もが何も分からないところからスタートしますが、そこで懸命に仕事に取り組む、そんな実直で健気な姿勢が人との縁を紡ぎ、その縁が自分を成長させてくれるのだと思います。みなさんの努力や仕事への姿勢を、見ている人は見ています。
しかし一方では、悩ましい問題の多くは人間関係に由来するものです。そんな時、苦手な人、問題となる人がいたら、その人への見方を変える、あるいは過度な期待値を下げる、そういった切り替えができれば解消できることはあると思います。人は色々な側面を持っていますし、家庭や地域社会では違った顔を持っているでしょう。仕事を通して見えるその人の顔が全てではありません。そう思って、その人の見方を変えると、違う顔が見えてくるかも知れませんし、それがその人との新しい関係性を築くきっかけになり得ると思います。

皆さんはこれから、仕事の中では多くの困難に直面し、大きなプレッシャーを感じることもあると思います。そんな時、他人事として考えてみることで突破口を見つけられることもあります。最初に言った「実直で健気な姿勢」とは相反するようなことを言いますが、今の自分を客観的にみる第三者の自分がいて、その自分なら、今の自分に対してどんなアドバイスをするだろうかと想像してみる。自分事としてプレッシャーと闘いながらなんとかしようとしていると、周りが見えなくなることがあります。その様な時に、ふと自分の立ち位置を変えて課題を見ることができると、解決の糸口を探ることができると思います。

最近、世の中が生きづらくなった、閉塞感を感じる、漠然とした不安がある、そう考えている方も多いのではないでしょうか。そんな中でなんとか自分の人生を切り開こうと努力されていると思いますが、精神的な無理はしないでください。本当に追い込まれた時はつぶされる前に逃げるのも一つの選択です。動物は身の危険を感じれば逃げます。逃げることをネガティブに考えるのでなく、現実との距離感、対峙する方法を変えるための時間を確保する、というように捉える。そしてそれは、自分の人生で何が大切なのか、それを探すことに繋がると思います。

世の中には色々な価値観がありますし、色々な考え方が許容されていく世の中になっていく(そうあってほしい)と思います。そんな多様な価値観が許容される世界で自分にとって大切なものは何なのか、それを考える機会が来たと前向きに捉えられないでしょうか。明日は明日の風が吹く。自分にとって大切なもの、それが明日見えるかも知れない、明日はそんな可能性に満ちている。しんどい状況に真摯に立ち向かおうとしている人こそ「明日は明日の風が吹くさ」と厳しい現実をいなすことも、健全な精神を保つためには必要な術なのではと思います。